「読書」カテゴリーアーカイブ

エコロジー的思考のすすめ20170330

1971年立花隆30歳の時の作品を1990年、いくらかの新しいデータを付け加えて文庫化したものである。20年たっても内容が古くないばかりか、さらに25年以上たっても考えるべき視点がたくさんである。先日よんだサピエンス全史にも通じる内容である。

エコシステムとは生態系であり、生物群集と非生物的環境の総合された物質系のことだというが、要するに地球上のものはすべて複雑に絡み合って存在しているということだと思う。地球システムをエネルギーに関しては開放系、物質はほぼ閉鎖系ととらえるそうだ。

生態系や気候にとどまらず、システム、適応、倫理にまで考えを進めている。システムについては、チャンネルは多い方が良い、フィードバック機構をつくれ、と現在でも言われていることである。

ある生物にとって最適条件となると、潜在的に持っている繁殖力により、数が爆発的に増えることになる。しかも生物が機能を完全に発揮できるのは、最適条件下よりも我慢状態においてである。生物は生態系に組み込まれていることによって爆発的増加を抑えられてきたが、人類は努力を積み重ね、最適条件近くまで達してしまったので、人口爆発寸前まで来ている、と45年前に立花氏は書いているが、今すでに人口大爆発状態になってしまった。ストイシズムがが生き延びる条件であり、下等生物のほうが適応幅が広く環境変化に対して耐えうると述べられている。

人間の倫理観は自然の前では通用しない。弱い者は卑怯な手を使って生き延びる。ゴマすり、足を引っ張る、だます、強者にへばりついて甘い汁を吸うなど。強者は弱者の甘えと卑怯さを許す。その中間のものは助け合いの精神を発揮するのがよい。

生存については、似た者同士はライバルになり、過密も過疎も生存には適さない。人は縄張りを大事にする。順位付けは腕力だけの動物と違って人間は、順位の種目が多すぎる。出し入れが激しいほど生活は豊か。

無駄をなくして合理的にということで小さな無駄はなくすことに夢中になるあまり、大きな無駄を見のがしているかもしれない。自然には一見無駄に見えても無駄なものはなにもない。

サピエンス全史20170225

上下巻のボリュームある本です。地球上にいくつか生まれた人類の内なぜホモサピエンス1種のみが生き残り繁栄したのか。3つの革命がサピエンスの歴史で大きな変化をもたらしたとしています。認知革命、農業革命、科学革命。現実に存在しないものを他者とあるいは集団で信じることができるのはサピエンスだけ。宗教然り、国家然り、貨幣然り。そして認識を共有して大きな力を出せるので他の人類種を凌駕できた。これが認知革命。農業革命は、自然に人工的に手を加え食料を得るようになったこと。食料が増え、サピエンスの数を増やすことになった。しかし、狩猟採集時代はいろんなものを食料にしてきたのに、農業によりある特定の作物、家畜だけを育てるようになり、いわばサピエンスはそれらの動植物の奴隷になったと言えるのではないか。食料のバラエティが減って栄養バランスが崩れたり、育てている作物が被害にあうと飢餓の恐れも増えたのではないか。第一、狩猟時代より労働量が増えたのではないか。はたして農業革命以前よりサピエンスは幸せになったのだろうか、と疑問を投げかけています。科学革命以前は、支配者は何でも知っていて、将来も今も大きく変わることはないという認識だった。そうではなくて、サピエンスにはまだ知られていないことだらけなのだ、知ることによってかわるのだという認識を持つことで急速に技術を発展させることができるようになったのが科学革命の本質なのだと唱えています。

目からうろこのとらえ方です。サピエンスは発展を遂げてきましたが、実際以前より幸福になっているのかという問いに対して、幸福の感じ方にはホルモン受容体に関する限界があるので、個人の幸福度がどんどんあがっていくことはないという、生化学に基づいた結論を述べ、何を望んだらいいのかを考える時ではないかと締めくくっています。

漢方的スローライフ10161212

ちくまプリマー新書の幸井俊高さんの本です。中高生向けに書かれていてよみやすいです。漢方医学(日本伝統医学と言い換えられる)では病気の症状を直すのではなく、病気の原因になっている体質を整えることで体調をよくすることを目標としている、西洋医学とのアプローチの違いがあるということをわかりやすく解説しています。
現代の慢性病を起こす体質を大きく5つに分類しています。
A.ため込む体質
B.流れがよくない体質
C.足りない体質
D.  バランスが悪い体質
E.心身が不安定な体質
何かの不調で漢方薬を処方されたとき、その薬を飲んで別の今までずっと気になっていた症状がすっとなくなることがあります。薬が自分の状態にぴったり合った時体調が整えられていきます。漢方薬は体全体を見ているので、体調に合った薬で、体全体が調子よくなっていきます。

漢方の考え方に基づいた、健康な生活を送るためのコツも述べられていて、現代人が陥りやすい体調不良を起こす原因とそれを避ける方法も書かれています。慢性的な心身不調を感じている方には参考になる本だと思います。

失われていく、我々の内なる細菌20161209

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃がんの原因になる細菌として有名になり、保菌者は除菌するという医療が一般的になってきつつありますが、著者のマーティンJブレイザーは、細菌学、感染症学に長く携わり、ピロリ菌研究第一人者です。

生物の進化はその体内に膨大な細菌を取り込むことで進んできたのではないか、我々とともにある細菌は、時として病気を引き起こすが、ある時は健康に寄与しているのではないか。それでなければ、共存しているはずがないのではないか。たとえばピロリ菌保有者の方が胃がんになりやすいが、非保有者の方が逆流性食道炎になりやすい、という事実がわかってきています。

腸内の細菌は宿主のために消化吸収を担っています。免疫に関する役割も果たしています。人間だけでは到底保持できない遺伝子を補っています。皮膚の常在菌が存在しなかったら、病気を引き起こす細菌に感染しやすくなるでしょう。

抗生物質は致死的な感染症から劇的に身を守ってくれます。しかし予防的な投与はどうなのか、著者はそのことについて漫然とした投与をすべきではないと言っています。それによって、長い歴史の中で人間と細菌が作り上げてきた共存関係が崩れつつあると言います。

生物多様性が人間の発明した薬によって失われつつあるということでしょうか。

 

 

 

 

 

 

自転車道交法BOOK 20161106

自転車で安全に走るためのガイドブックという副題付です。自転車はどこをどう走るのが法に則っていて安全なのか、道路交通法に従い、解説しています。また、厳密に守ると危険な場合の現実的に安全な方法や、尋ねるところによって違う答えが返ってくる場合など、グレーゾーンともいえる場合の対処の仕方など、正しく安全にそして自転車の地位向上について書かれた自転車乗りには大変有用な本です。著者の一人の疋田さんは自転車ツーキニストと名乗り、安全に自転車に乗れる社会つくりに力を尽くしている方です。それにはまず自転車乗りが安全に乗るためのルールを理解し守ること。歩道上を走る自転車が歩行者に危険を及ぼし、歩道から車道に出てくる自転車が自動車から危害を受けやすいのだから、自転車は車道の左端を走ることを徹底すれば事故は減らせる。すべての自転車乗り、そしてすべての道路利用者が同じルールを共有することこそ王道であると説いています。このことが早く一般常識になってほしいものです。

 

北海道薬用植物図集20160420

北海道主要樹木図譜を作った工藤祐舜と須崎忠助コンビによる図鑑です。樹木図譜とは違い、白黒の線画ですが、ち密で美しいものです。薬が手に入りにくかった開拓時代に実用になるよう作られたものとのこと。

カラーの絵や写真はきれいですが、白黒の線画は形をはっきり示すので、たとえば野山で植物を見て鑑別するのにわかりやすいのではないでしょうか。説明文もありますのでかなり見分けられると思います。ただ、文語体で書かれていますので、現代の利用にはやや難あり。頑張って読んでみると、この草はこんな薬効があるんだ!という発見もあり面白いです。五味子や半夏,ゲンノショウコといったおなじみの生薬あり、まんさくがジギタリスの代わりになるとか、エンレイソウが胃腸薬とか初めて知りました。山に行く機会もあるので知っていると役に立つかも。

北海道主要樹木図譜20160412

大正9年から昭和6年にかけて刊行された植物図鑑です。札幌農学校2期生で後に教授になった宮部金吾と,ともに研究をしていた工藤祐舜により作られたが、なんといっても美しい画を描いた須崎忠助の力が大きい。植物画を見るのが好きで、いつか描いてみたいと思っていますので、この本の原画展が開かれるという情報に触れ、すぐ借りることにしました。といっても借りられるのは、もちろん出版当時のものではなく、小型にして口語表現に改められた復刻版です。学問的に正確で、実用的に配置、編集されておりなお美しく観賞してよしという、日本はもとより世界でも最高レベルの図鑑ということです。精密に描かれた図は隅々まで見ても見飽きることがありません。札幌にこんな素晴らしい植物図鑑があったなんて感動します。図書館で借りられますので、興味のある方は是非ご覧になってください。

コーヒーおいしさの方程式20160315

コーヒーの味を構成しているものを科学的に表現していて、大変わかりやすい本です。コーヒーを買うとき、ナッツの香りとかオレンジの風味とか、どこから来るのかと思っていましたが、わかりやすく書かれています。精製方法もなぜそういうのか、イメージをよくするための名づけ方だとか。今まで雰囲気で聞き流していたものがなんだったかわかりました。今度コーヒー店に買いに行ったら仕入れた知識をひけらかしてみようかな。
でもこういう科学的に表現した本は世界でも珍しいらしく、それが不思議です。それは著者の一人でコーヒーマニアの科学者、旦部さんの探究心のおかげです。焙煎、つまりコーヒーの生豆に熱を加えることによってどんな化学変化が起きどんな成分ができるのか、一般向けの本ですから、化学式は出てきませんが、加水分解と脱水反応が主な変化ということです。それによっていろいろな香り成分ができるとのこと。

抽出するときの器具の特徴も詳しく述べられていますし。深煎りと浅煎りの風味の差、それぞれを生かす抽出など、今までの疑問が一気に解決しました。豆の精製や焙煎は自分でやらないけど、抽出は毎日やりますから、少し詳しく勉強しておきましょう。コーヒーメーカーを使わず、手で入れた方がおいしいかも、。

 

Go wild野生の体を取り戻せ20160301

『脳を鍛えるには運動しかない』の著者の最新作です。なるほどと思うことがたくさん書かれていました。

進化は幸福を好む。幸福かどうかは生物として快調かどうかによるところが大きい。

農耕が始まり定住するようになりブドウ糖の塊を手にするようになってから様々な文明病があらわれた。狩猟時代と人間の仕組みは変わっていないのに、食料やライフスタイルが変わったためである。

人間は多様性に対応できるから地球上で繁栄できたが、また、多様な食べ物を摂取しなければいけない。

からだを動かすことで血流が良くなると脳の働きが良くなる。そして、トレイルランはいろいろな刺激があり対処すべきことが次々現れるのだ。そしてドーパミンなどの報酬系の神経伝達物質が出て人間を生き延びさせようようと働く。

睡眠不足はストレス状態と同じでコルチゾルが分泌され食欲が増え血糖値が上がる

マインドフルネス(今この瞬間に意識を集中させること)が狩猟採集民の心には現れる。それは瞑想の心持と共通点がある。

バイオフィリア(生物や自然への愛情)があることで人間は生き延びてくることができたのだろう。事実、土を触っただけでもストレスが減少するという事例も報告されている。トレイルランというスポーツが現在急速に発展してきているのは狩猟採集をしていた人間の持つ欲求を満たすからではないか。

人間が繁栄するために、保育と食糧供給に協力が欠かせなかった。利己的も利他的もどちらも必要である。オキシトシンは仲間意識に働く。

迷走神経は進化の過程で迷走した。脅威を感じ戦闘態勢になったあと、武装解除、全身各部にリラックスを命じる働きをする。呼吸で迷走神経を調節できる。合唱やヨガ、管楽器も有効である。体内環境を一定に保つホメオスタシスでは不十分で、今アロスタシスというモデルが考えられている。体内環境を外部環境に合わせて調節していく機能のことで、あらかじめ起こりうることを予測して調節する。ストレスを受けることによって成長できるのだ.

食生活や運動を狩猟時代のそれに近づけることで文明によって引き起こされたさまざまな不調から逃れることができる。どうすればよいかは人それぞれであるが、低炭水化物食と変化にとんだ運動はきっかけになるだろう。

砂糖の入った飲料と穀物とトランス脂肪酸は摂るべきではないと書かれています。甘い飲み物は好きじゃないのでやめられるし、マーガリンやショートニングは加工品に入っているので加工品を避ければよいけれど、炭水化物をやめるのは厳しいですね。ごはんや麺は食べなくても暮らせるけれど、大好きなパンを食べるのをやめたらお菓子を食べてしまいそうだ、マリーアントワネットになりそうだ。どうしましょう。

 

 

 

 

 

ピアノの森20151226

連載期間18年だそうですが、まんが ピアノの森 が完結し単行本が発売されました。レンタルコミックで読んでいましたが、待ち切れず、完結編は買ってしまいましたよ。主人公のピアノの素晴らしさも面白いのですが、コンクールの出場者、審査員のいろいろなドラマが面白く、感動します。

実際に聞いてみたいですね、圧倒的なショパンの演奏を。そしてピアノを習いたくなります。