「生化学、薬学」カテゴリーアーカイブ

もう一つのアルデヒド20220628

先日アルデヒドは毒というお話をしました。前回はお酒のアルコールからできるアセトアルデヒドのお話ででしたが、もう一つ身近なアルデヒドがあります。ブドウ糖はアルデヒドなのです。アルデヒドはほかのものにくっつく性質が強く、体内組織を糖化してしまいます。それが老化現象の一つと言われています。

ただし、血液中でブドウ糖がすべてアルデヒド型で存在しているのではなく,化学の話になりますが,アルデヒドは反応しやすいので、分子の中で反応して環状構造になり、ほとんどがアルデヒドではない状態で存在しています。

砂糖の分子はショ糖と呼ばれますが、ブドウ糖と果糖からできています。果糖そのものはアルデヒドではないのですが、ブドウ糖よりアルデヒドに変化しやすい性質を持っていて、要注意です。

血糖値が高いとよくないというのは、微量でもアルデヒドという毒がゆっくり体を害していくからなのです。

アルコールの代謝について20220623

コロナ禍以来初めて会食に参加しました。少人数で広めの個室でしたのでまあ安全といえるでしょう。

久々にたくさんお酒を飲みましたので、今回はアルコールの分解について講義風です。

アルコール(エタノール)はまずアルコール分解酵素によりアセトアルデヒドに変えられます。次にアセトアルデヒドはアルデヒド分解酵素によって酢酸に変わります。2種類の酵素がないとアルコールを無害な物質にできないのです。

ここでアルコールの働きについてまとめておきましょう。アルコールは中枢神経に働いて麻痺させます。感覚が鈍くなり精神にも作用します。血中濃度が0.4%を超えると昏睡から死に至る危険があります。

さてアセトアルデヒドの働きは何でしょう。はっきり言うとアセトアルデヒドは毒です。お酒を飲んで顔が赤くなったり吐き気がしたりするのはアセトアルデヒドの働きです。又、発がん性があり食道がんの原因になるといわれています。

アルコールを分解する2種類の酵素は個人によって多い少ないがあって、お酒の強い人、弱い人がいるのはそのためです。そしてよく考えると2つの酵素それぞれに強い弱いの個人差がありますのでお酒の強さには4つのパターンがあることになります。

1つ目はアルコール分解酵素もアルデヒド分解酵素も強い人。これは言わずと知れた酒豪ですね。アルコールが胃と小腸から吸収され肝臓であっという間にアルデヒドになり酢酸になりますのでいくら飲んでも酔いもしなければ気分悪くもならない。お酒を飲む必要があるのでしょうかね。最初からお酢を飲んでいればいいんじゃないかな。

2つ目はアルコール分解酵素は強いがアルデヒド分解酵素が弱い人。この人たちはアルコールの血中濃度が上がって酔っぱらう前にアルデヒドが体内に増えて赤くなったり気分が悪くなったり頭が痛くなったりしますから、基本飲めません。しかも毒であるアルデヒドがたまりやすいのですから、絶対に飲まないほうがいいと思います。

3つ目はアルコール分解酵素もアルデヒド分解酵素も弱い人。一見飲めなさそうですが、ゆっくりちびちびいけます。アルコールがゆっくり分解されるのでアルコール血中濃度はすぐ上昇し気持ちよくなります。アルデヒドはゆっくりたまりますからゆっくり分解してもまあ間に合う、ゆっくり飲めばそれほどアルデヒドがたまらないので気分悪くもならないというわけです。己を知って適度に楽しむのがいいと思います。

最後はアルコール分解酵素が弱くアルデヒド分解酵素が強い人。すぐにアルコール血中濃度が上がって気持ちよくなります。ゆっくりできるアルデヒドはすぐ分解されてたまりませんので顔が赤くなったり気分が悪くなったりしません。するとどうなるでしょうか。ストッパーが働かないのでどんどん飲んでしまう危険があります。周りの人からは、よく飲むし、顔も赤くないので、お酒に強い人だと思われてしまいます。気づいたら昏睡状態になったり、アル中になりやすいのがこのグループです。このタイプだと自覚のある方は、一緒に飲む人に自分はお酒に弱いことを伝えておくこと、一人では飲まないことを心掛けるとよいと思います。

以上アルコールの分解タイプの解説でした。お酒を楽しむための参考にしていただければ幸いです。

ホモピクトルムジカーリス アートの進化史20170915

ヒトはなぜ芸術活動をするのか、動物学的観点から考察した本です。作者は岩田誠。2001年に書かれた「脳と音楽」という本は音楽家の脳について研究した内容でありとても興味深く、図書館で借りた後に購入してしまいました。読み始めて間もなく、同じ作者の本と知り、期待して読み進めました。

絵を描く行動は言語の習得と関連していることが幼児の発達の観察から示唆されました。仲間に行動を促すタイプの言語は類人猿をはじめとするいろいろな動物で見られるが、目の前に見られない物事を伝えることができるのはヒトだけであり、そのことがアートを生み出すとしています。古代の洞窟画のある場所は非常に音響の良い場所であることが明らかになりました。当時その絵の前で、楽器を鳴らしたり歌を歌ったりしていたことが想像されます。

アートは祈りであり、帰属する集団の一体感を高めるものであるということは古代も現代も変わっていないことのようです。

動的平衡(1)(2)、変わらないために変わり続ける、生命と食 福岡伸一20170730

分子生物学者の福岡伸一さんの著書をまとめ読みです。『生命と食』(2008)は食べたものが生物の体を構成しておりそこに動的平衡が存在する。それを無視した効率だけを考えた食料供給が人間に与える影響は大きいのではないかという話。狂牛病は人災だとか、遺伝子組み換えは時間の淘汰を受けていないということに科学的に意見を述べています.

『変わらないために変わり続ける』(2015)はニューヨークで客員教授をしていた時のエッセイ集。科学に関するものは共感できることばかり。文学、食文化、自然観察、そして芸術に関する所感が並びます。どれも科学者の、平等で公平なものの見方に基づいていて、素直に読めます。

動的平衡1(2009)は、生命の定義について論じていて,生体は機械の部品からできているのではなく、分子の流れのよどみである,環境と別のものではなく、生命を考えるときは周りの環境も考えなければならない。脳は錯覚するようにできていて、直観に頼ると真実をとらえられない。そのために勉強するのだと述べています。

動的平衡2(2011)は主に遺伝子について考察されています。今まで遺伝子についておぼろげに抱いていた疑問について多くのヒントを与えてくれます。ヒトとチンパンジーの遺伝子は98%以上が同じで違っている部分に人間を特徴づける遺伝子があるわけではないという。種の違いを生じさせるのは、遺伝子が発現するタイミングではないかと著者は考えている。それを引き起こすのは,卵細胞内の物質であったりDNAの糸巻の状態だったりまだまだ研究途中だそうです。遺伝子の正体がDNAでこれがタンパク質の構造を決めているのだという大発見以来、生物学者はDNA信仰とでもいうものにとらわれてきた傾向があります。しかしDNAだけで説明できない多くの矛盾や疑問を説明するには、エピジェネティクスという考えが出てきているということで、これから生命の謎が解き明かされていくのを楽しみにしようと思います。

サピエンス全史20170225

上下巻のボリュームある本です。地球上にいくつか生まれた人類の内なぜホモサピエンス1種のみが生き残り繁栄したのか。3つの革命がサピエンスの歴史で大きな変化をもたらしたとしています。認知革命、農業革命、科学革命。現実に存在しないものを他者とあるいは集団で信じることができるのはサピエンスだけ。宗教然り、国家然り、貨幣然り。そして認識を共有して大きな力を出せるので他の人類種を凌駕できた。これが認知革命。農業革命は、自然に人工的に手を加え食料を得るようになったこと。食料が増え、サピエンスの数を増やすことになった。しかし、狩猟採集時代はいろんなものを食料にしてきたのに、農業によりある特定の作物、家畜だけを育てるようになり、いわばサピエンスはそれらの動植物の奴隷になったと言えるのではないか。食料のバラエティが減って栄養バランスが崩れたり、育てている作物が被害にあうと飢餓の恐れも増えたのではないか。第一、狩猟時代より労働量が増えたのではないか。はたして農業革命以前よりサピエンスは幸せになったのだろうか、と疑問を投げかけています。科学革命以前は、支配者は何でも知っていて、将来も今も大きく変わることはないという認識だった。そうではなくて、サピエンスにはまだ知られていないことだらけなのだ、知ることによってかわるのだという認識を持つことで急速に技術を発展させることができるようになったのが科学革命の本質なのだと唱えています。

目からうろこのとらえ方です。サピエンスは発展を遂げてきましたが、実際以前より幸福になっているのかという問いに対して、幸福の感じ方にはホルモン受容体に関する限界があるので、個人の幸福度がどんどんあがっていくことはないという、生化学に基づいた結論を述べ、何を望んだらいいのかを考える時ではないかと締めくくっています。

失われていく、我々の内なる細菌20161209

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃がんの原因になる細菌として有名になり、保菌者は除菌するという医療が一般的になってきつつありますが、著者のマーティンJブレイザーは、細菌学、感染症学に長く携わり、ピロリ菌研究第一人者です。

生物の進化はその体内に膨大な細菌を取り込むことで進んできたのではないか、我々とともにある細菌は、時として病気を引き起こすが、ある時は健康に寄与しているのではないか。それでなければ、共存しているはずがないのではないか。たとえばピロリ菌保有者の方が胃がんになりやすいが、非保有者の方が逆流性食道炎になりやすい、という事実がわかってきています。

腸内の細菌は宿主のために消化吸収を担っています。免疫に関する役割も果たしています。人間だけでは到底保持できない遺伝子を補っています。皮膚の常在菌が存在しなかったら、病気を引き起こす細菌に感染しやすくなるでしょう。

抗生物質は致死的な感染症から劇的に身を守ってくれます。しかし予防的な投与はどうなのか、著者はそのことについて漫然とした投与をすべきではないと言っています。それによって、長い歴史の中で人間と細菌が作り上げてきた共存関係が崩れつつあると言います。

生物多様性が人間の発明した薬によって失われつつあるということでしょうか。

 

 

 

 

 

 

北海道薬用植物図集20160420

北海道主要樹木図譜を作った工藤祐舜と須崎忠助コンビによる図鑑です。樹木図譜とは違い、白黒の線画ですが、ち密で美しいものです。薬が手に入りにくかった開拓時代に実用になるよう作られたものとのこと。

カラーの絵や写真はきれいですが、白黒の線画は形をはっきり示すので、たとえば野山で植物を見て鑑別するのにわかりやすいのではないでしょうか。説明文もありますのでかなり見分けられると思います。ただ、文語体で書かれていますので、現代の利用にはやや難あり。頑張って読んでみると、この草はこんな薬効があるんだ!という発見もあり面白いです。五味子や半夏,ゲンノショウコといったおなじみの生薬あり、まんさくがジギタリスの代わりになるとか、エンレイソウが胃腸薬とか初めて知りました。山に行く機会もあるので知っていると役に立つかも。

半夏瀉心湯ハンゲシャシントウ 漢方製剤ノート⑪20160316

効能;みぞおちがつかえ、時に悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症;急、慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔い、げっぷ,胸やけ、口内炎、神経症

処方;半夏5.0g、黄芩、乾姜、甘草、大棗,人参 各2.5g、黄連1.0g

作用機序;胃粘膜防御作用、抗炎症作用、大腸水分吸収亢進作用、消化管運動抑制作用

副作用;間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパチー、肝機能障害

注意;高齢者には減量など。妊産婦には効果が副作用を上回る場合投与。小児への安全性は確立していない。

証;中間証、虚証

注:本投稿は漢方製剤を勉強するため、最低限抑えるべき項目を列挙しています。実際に投与する場合、服用する場合は、製品の添付文書、注意書きにしたがってください。

コーヒーおいしさの方程式20160315

コーヒーの味を構成しているものを科学的に表現していて、大変わかりやすい本です。コーヒーを買うとき、ナッツの香りとかオレンジの風味とか、どこから来るのかと思っていましたが、わかりやすく書かれています。精製方法もなぜそういうのか、イメージをよくするための名づけ方だとか。今まで雰囲気で聞き流していたものがなんだったかわかりました。今度コーヒー店に買いに行ったら仕入れた知識をひけらかしてみようかな。
でもこういう科学的に表現した本は世界でも珍しいらしく、それが不思議です。それは著者の一人でコーヒーマニアの科学者、旦部さんの探究心のおかげです。焙煎、つまりコーヒーの生豆に熱を加えることによってどんな化学変化が起きどんな成分ができるのか、一般向けの本ですから、化学式は出てきませんが、加水分解と脱水反応が主な変化ということです。それによっていろいろな香り成分ができるとのこと。

抽出するときの器具の特徴も詳しく述べられていますし。深煎りと浅煎りの風味の差、それぞれを生かす抽出など、今までの疑問が一気に解決しました。豆の精製や焙煎は自分でやらないけど、抽出は毎日やりますから、少し詳しく勉強しておきましょう。コーヒーメーカーを使わず、手で入れた方がおいしいかも、。

 

Go wild野生の体を取り戻せ20160301

『脳を鍛えるには運動しかない』の著者の最新作です。なるほどと思うことがたくさん書かれていました。

進化は幸福を好む。幸福かどうかは生物として快調かどうかによるところが大きい。

農耕が始まり定住するようになりブドウ糖の塊を手にするようになってから様々な文明病があらわれた。狩猟時代と人間の仕組みは変わっていないのに、食料やライフスタイルが変わったためである。

人間は多様性に対応できるから地球上で繁栄できたが、また、多様な食べ物を摂取しなければいけない。

からだを動かすことで血流が良くなると脳の働きが良くなる。そして、トレイルランはいろいろな刺激があり対処すべきことが次々現れるのだ。そしてドーパミンなどの報酬系の神経伝達物質が出て人間を生き延びさせようようと働く。

睡眠不足はストレス状態と同じでコルチゾルが分泌され食欲が増え血糖値が上がる

マインドフルネス(今この瞬間に意識を集中させること)が狩猟採集民の心には現れる。それは瞑想の心持と共通点がある。

バイオフィリア(生物や自然への愛情)があることで人間は生き延びてくることができたのだろう。事実、土を触っただけでもストレスが減少するという事例も報告されている。トレイルランというスポーツが現在急速に発展してきているのは狩猟採集をしていた人間の持つ欲求を満たすからではないか。

人間が繁栄するために、保育と食糧供給に協力が欠かせなかった。利己的も利他的もどちらも必要である。オキシトシンは仲間意識に働く。

迷走神経は進化の過程で迷走した。脅威を感じ戦闘態勢になったあと、武装解除、全身各部にリラックスを命じる働きをする。呼吸で迷走神経を調節できる。合唱やヨガ、管楽器も有効である。体内環境を一定に保つホメオスタシスでは不十分で、今アロスタシスというモデルが考えられている。体内環境を外部環境に合わせて調節していく機能のことで、あらかじめ起こりうることを予測して調節する。ストレスを受けることによって成長できるのだ.

食生活や運動を狩猟時代のそれに近づけることで文明によって引き起こされたさまざまな不調から逃れることができる。どうすればよいかは人それぞれであるが、低炭水化物食と変化にとんだ運動はきっかけになるだろう。

砂糖の入った飲料と穀物とトランス脂肪酸は摂るべきではないと書かれています。甘い飲み物は好きじゃないのでやめられるし、マーガリンやショートニングは加工品に入っているので加工品を避ければよいけれど、炭水化物をやめるのは厳しいですね。ごはんや麺は食べなくても暮らせるけれど、大好きなパンを食べるのをやめたらお菓子を食べてしまいそうだ、マリーアントワネットになりそうだ。どうしましょう。